製作国:カナダ/アイルランド/イギリス/アメリカ
上映時間:118分
原題:Room
配給:ギャガ/カルチュア・パブリッシャーズ
監督:レニー・エイブラハム
出演:ブリー・ラーソン/ジェイコブ・トレンブレイ/ジョアン・アレン
閉じ込められている場所:誘拐犯の部屋
■あらすじ
髪の長い5歳の少年ジャックと母親のジョイは天井に窓が1つある6畳ほどの部屋で暮らしています。日曜日になるとオールド・ニックと呼ばれる男が部屋に現れ、生活に必要な品を置いたかと思うと、その後ジョイと布団にもぐりこみベッドをきしませるのです。
その間ジャックはクローゼットに隠れていなければなりません。
そして事が終わるとオールド・ニックは部屋の外側から鍵を掛けて去っていくのです。
ジョイは17歳の時にオールド・ニックに誘拐され、7年間この部屋に監禁されています。
ジャックはその誘拐犯との間に生まれ、5年間この部屋だけで生活してきたのです。
この部屋がジャックの世界全てなのです。
テレビに映し出されるのは宇宙だと思い込み、疑う事もなく無邪気に日々を過ごすジャックを見てこのままではダメだと部屋を脱出する事にしたのです。
ジャックを死んだことにしてカーペットに包み、埋葬のためオールド・ニックに外に運ばせ、道中ジャック自ら脱出し助けを求めるというものでした。
テレビに映る世界は宇宙などではなく、鍵の掛かった扉の先に本当にあるという事、この部屋を抜け出し外の世界に行く事。なかなか受け入れる事が出来ないジャックを説得し作戦を決行します。
ジャックは何とか作戦通り部屋から運び出され、トラックの荷台でカーペットから抜け出した時、天窓越しではなく直接青く広い本物の空を見たのです。
ジャックが世界と出会った瞬間でした。
トラックから逃げる事に成功したジャックは近隣の住民が通報して駆けつけた警官に保護されました。さらにジャックの証言からジョイの監禁場所も突き止められ、オールド・ニックは逮捕され、2人は再開を果たすのでした。
2人は病院に入院し、様々な検査をしました。退院後はジョイの母親とその再婚相手と生活する事になりました。
新しい世界に順応していくジャックに対し、ジョイにとって空白の7年間は非常に長く、世界は残酷で非情でした。
家族との溝、連日押し寄せるマスコミからの心ない質問にさらされるジョイ。
とうとうジョイは多量の薬を服用し、自殺を図ってしまいます。
一命は取り留めたジョイですが、心の傷を癒すため再び入院してしまいます。
ジャックから自分の髪を切ってお守りとして渡されたジョイは、回復し退院することができました。
ジャックは戻ってきたジョイにあの部屋にちょっとだけ帰りたいと言います。
2人にとって全てだった部屋。
久しぶりに戻った部屋はどこか違って見えます。
ジャックはここでの思い出に別れを告げ、2人は去っていくのでした。
■みどころ
本作はオーストラリアで起こったフリッツル事件という監禁事件を基に書かれた小説『部屋』を原作としています。
冒頭から描かれる親子2人の生活はあまりにも衝撃的なもので、見るに堪えない内容です。
対して、画面に映し出されるジャックは無邪気で明るく笑顔に溢れています。
そのコントラストがよりこの状況の異常さ、残酷さを色濃いものにしています。
部屋から脱出する時の緊迫感も凄まじく、その先でジャックが見たものは〝単なる外〟ではなく、〝生まれて初めて触れる世界〟なのです。
どこまでも突き抜けるような青い空がそれを象徴しています。
そして本作の最も特筆すべき点はこの部屋からの脱出がゴールではないという所です。
5歳で初めて外の世界を知った子と7年間監禁された母親がいかに社会に復帰していくかというセンシティブな部分を描いており本作に社会派な一面を持たせています。
監禁生活の恐怖から解放された2人は世間の恐怖にさらされる事になり、そこをどのようにして乗り越えていくかが見どころとなっています。
主演のブリー・ラーソンの演技は高く評価されており、アカデミー賞主演女優賞を受賞しています。
さらに注目はジャック役のジェイコブ・トレンブレイです。
世界を知らないという非常に難しい役どころですが、本当に初めて空を見たかのようなあの瞳には感嘆せずにはいられません。
■感想
このような事件が実際にあったのかと思うと非常にショッキングですが、人の弱さ、強さを鮮明に描いており、明確なハッピーエンドやバッドエンドではないところに新しい世界での2人の生活がしっかりと続いてくように感じ取れます。
人はどのような状況でもその環境に慣れ、それが当たり前だと思ってしまいます。
そこから抜け出す事は恐怖が伴い、なかなか踏み切れないかもしれません。
でも、その先に限りなく広がる青空が待っているのかもしれません。